『本番に弱いトラウマ』からの脱出をめざすスポーツ選手のための心理分析・行動療法のクリニック

KIM, Sung-Teh, M.D.

 

 潜在能力はトップクラスであるにもかかわらず、大試合で実力を発揮できないプロスポーツ選手を対象として心理分析、メンタルトレーニング、行動療法による自己変革プログラムをスポーツドクターが担当し、選手とともに目標の達成にチャレンジします。種目は問いません。ケースバイケースですが、1ヶ月〜2年程度のタイムスケジュールで個別に設定したゴールの達成を目指します(target-oriented program)。また、クライアント(選手)からの直接の依頼だけでなく、コーチ、トレーナーのコンサルティングやチームの一員としての活動も行っています。

 

プレッシャーに弱いとはどういうことか?

心理的背景を探ると、それぞれの性格傾向の弱みにもとづく複数のタイプが存在することがわかる。

例えば…



   過緊張

 強すぎる虚栄心

 平常心の喪失

    極度の不安

  過度の義務意識


動悸・発汗・震えなどの徴候、そして余計な力が筋収縮のバランスを崩し、協調運動・精密動作・スピードを損なってしまう。徴候と失敗が関連づけられてしまうとリラックスを損ねる悪い連鎖が遷延する。

 眼前のプレーに集中することよりも、成功への期待が先行し、野心が膨張して現実から遊離してしまう。一発逆転、一攫千金、汚名返上を狙って無謀な選択をして自滅する。強い劣等感が隠されていることが多い。

“あがり”のため、冷静な判断力を失い、練習でできていたこともできなかったり、とっさに普段のルーチンとはちがうことをして自滅する。理性の機能不全が前面に立つが、過緊張の症状やチック、欠伸発作などの身体症状が随伴する。

眼前のあるいは切迫している何か嫌なこと(雰囲気・注目、失敗の感覚、もっていたものを失うこと、恥をかくこと、自身の弱点の露呈など)を漠然と恐れて萎縮し、不安が判断や身体の動きを制約してしまう。


負けられないという自意識や責任感に圧迫され、競技以外の部分で消耗してしまう。負ける自分を許せない状況に追い込んでいき、果ては競技が精神論に置き換わってしまう。



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    玉砕

    集中力欠如

   対人恐怖

    逃避

    価値観の錯誤


理性的な判断を途中で遮断し、あとは運を天に任せてしまう。試技のある時点で理性的な情報処理が途絶していることが多く、失敗に終わる。

大事なシーンで周辺的な情報に気をとられ、試技に重要な情報の処理の精度が落ちて崩れていくため、成功の確率が普段よりも低下する。

実力とは無関係に相手が強く見える。特に初めての相手を前に萎縮してしまう。短時間に勝負が決まってしまってリカバーの機会がないタイプの格闘技や短距離競走などでは敗北に直結し深刻な問題となっている。


何かを敗北の理由に仕立て上げ、長期に努力してきたにもかかわらず、眼前の勝利は自ら放棄し、次回こそは頑張っていい結果がだせるはずだと言い訳する。次回もまた新たな理由により逃避を繰り返すことになる。


芸を究めたいわけでもなく、自己の喜びでもなく、他人の期待に応えるために失敗したくないが、極限状況で冷めた自己に直面し、モチベーションが上がらない。




 潜在的失敗願望

   ミスマッチ

No-risk, no-return

  柔軟性の欠如

   燃え尽き


 心のどこかに自虐的な快感を求める別の自分が潜んでいる。努力はできるのだが、間欠的に崩れることで、自分を激しく責め、同時に安心感を感じる潜在的マゾヒスティックな性格傾向。

実力と目標の乖離。ほぼ不可能な成果を求め続け、失敗を繰り返すというベンチマーク不全。チームの戦術と相性で活躍していた選手が自惚れて、移籍後に不調になるのもベンチマーク不全の例。

 成功確率が低いリスキーなプレーには挑戦せず、相手に予測されてしまう堅実なプレーに終始する。目立ったミスもないが、見せ場もないまま敗北するパターン。目立つ失敗よりは目立たない敗北を選ぶ。

 奇襲や劣悪な競技条件など想定外の事態での心の安定や対応能力に乏しい。複雑、曖昧な因果を嫌い、単純明快で予測できることを好む傾向が強い。また自分に好都合な予測を客観的事実と信じる勘違いも見られる。過度なパターン練習への依存は苦行であってもある意味逃避的で悪循環にはまり込む。

競技の問題で、既に勝利を求めるモチベーションと活力を失っているため結果が出ない。競技能力と意欲のギャップが大きいと周囲との軋轢を生む。初期のうつ症状のこともある。最も治療が難しく、改善に時間を要する。




パフォーマンスの低下に直結する問題の発生は試合直前や試合中に限定されるものでもない。過緊張、強すぎる虚栄心、不安、過度の義務意識が背景にある場合、試合の前日や数日前から不眠や食欲低下などの身体症状を随伴し、コンディション調整に苦労することも少なくない。心的要因以外に、練習環境と競技環境がちがいが大きいことも選手のパフォーマンスをさらに低下させる原因となる。本番でのパフォーマンス低下は、性格傾向、特異な心的反応、外的要因のプレッシャーの大きさ、高すぎる目標、選手の生活背景、練習環境、調整の失敗などが複雑に絡まって引き起こされていると考えられる。

外的要因がそれほど異常とは思えない状況で、本番で実力が発揮できない原因としては、好ましくない心の要因がいくつも複雑にかかわっていることが多い。しかもそうした心の要因の多くは、生来の性格傾向と密接に関係する弱点に起因するため、頭でわかっていても自分独りやコーチの力では解決が困難なことが多い。過酷な練習を強いても必ずしも精神力の強化にはつながらない。専門的なスポーツ精神医学/心理学により、潜在意識を含めた心の反応の複雑系を解きほぐすことができれば、一人一人に最適な解決の糸口がみつかり、心理的および行動的な訓練の反復により自己変革も可能となる。